オルフェウスと竪琴
心優しき 吟遊詩人
愛妻 エウリュディケ との 別離
竪琴を奏でるオルフェウス(オルペウス)
優しき吟遊詩人
オルフェウスは音楽の才能に恵まれていた。それを認めた太陽の神アポロンは、オルフェウスに竪琴をプレゼント。
楽曲の天才であるオルフェウスは竪琴を見事に習得し、ミュージシャンとして大活躍。森や草原で演奏し詠う、心優しき吟遊詩人である。
その楽曲の素晴らしさはハンパじゃない。美しき音色は森に野山に響き総ての者を魅了した。
シカやイノシシはやってくるし、鳥は空から下りてくる。なぜか異国のライオンやヒョウまでも。さらには、ヘビもにょろにょろやってくる。ミミズだって オケラだって アメンボだって みんなみんな聴いていたかもしれない。
それどころか、木々や岩までもがその音色に聴き入ったという。
幸福の時は短く
オルフェウスは木の精霊エウリュディケと深く愛し合い妻とした。
しかし幸福の時は短く終わってしまった。エウリディケは毒ヘビ足を噛まれて死んでしまう(ヘビもオルフェウスの竪琴にうっとりと聴き惚れたはずなのにね)。
オルフェウスは悲しみはたとえようもなく、嘆きの詩は野山に響き、動物達も草木も嘆き悲しんだ。いつまでも嘆いてばかりではいけない「妻を取り戻しに行こう」。諦めきれないオルフェウスは死者の国へ行ってエウリュディケを現世に呼び戻す決心をした。
死者の国 冥府へ
ペロポネス半島の最南端の岬には冥界へ通じる洞窟があり、オルフェウスは漆黒の闇に進んだ。亡者がゆらめき うごめいている。果てが分からない空間。恨み嘆く妖気が満ちている。
生きている者が死者の地に入ることなど許されるはずがないのだけれど、冥府への川を渡る渡し船の番人に竪琴と詩で説得。火を噴く地獄の番犬にも竪琴を聴かせておとなしくさせた。
そしてついに、死の神冥王ハデスの元にたどりつき「私の妻エウリディケを地上に返して欲しい」と願い出たのだ。
この時もやはりミュージシャンとして語りかた。冥府の王もオルフェウスの詩歌には感動してOKを出したのだと。
ああよかった・・・・でも、ここからが この神話の真髄であり、人間の「心の柔らかい場所を 今でも締め付ける」部分である。
振り返っては ならない
死者の冥王ハデスは言った。
「お前の妻を地上に返してやろう ただし地上に出て太陽を仰ぐまで 引き返す途中 お前の妻のほうを振り返って見てはならない」
ハデスはエウリュディケの手をオルフェウスに握らせた。
オルフェウスはエウリュディケの手を取り、長い道のりを引き返した。
エウリュディケの手は死者の手で冷たい。この手は本当に私の妻の手だろうか。どんな姿をしているのだろう。
エウリュディケと呼んでも返事はない。
地上への道のりは、まだ遠い。
ハデスとの約束・・・・分かっている。
森や草原で演奏し詠う、心優しき吟遊詩人であるオルフェウス。オルフェウスは妻の姿を見ずにはいられなかった。
ハデスとの約束・・・・判っている・・・オルフェウスは自分との戦いに敗れた。
振り返った。
つないだ手の先にエウリュディケはいた。
ただ、それは一瞬であった。愛しきエウリュディケは、地の底に落ちていった。
白く輝くエウリュディケは遠く小さくなり、点になり、そして、漆黒の闇にのまれて消えてしまった。
♪
ぼくらはみんな生きている 生きているから歌うんだ
ぼくらはみんな生きている 生きているから悲しいんだ
手のひらを太陽に すかしてみれば まっかに流れる ぼくの血潮・・・
ミミズだって オケラだって アメンボだって
みんな みんな生きているんだ 友だちなんだ
「手のひらを太陽に」 詩:やなせたかし
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Greek mythology Encyclopedia of musical instruments
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