楽器の場合、なぜか「発明」という言葉をよく使う。森田吾郎 大正琴を発明、アドルフ・サックスはサクソフォンを発明・・・みたいにね。
でもこれは発明ではなく、どちらかというと「開発」ですよね。今までに存在していたものを新しい手法で改良して作り上げたものなので。
ピアノという楽器にしても、発明でなく開発だと思うんだよね。もちろん弦を打つ構造そのものには発明が存在しているのだろうけど。
チェンバロ作りの職人であったクリストフォリがピアノ製作を完成させたのは1700年ごろだけど、それよりも200年以上も前に鍵盤を使って弦を打ち鳴らす設計をオランダの技術者が手がけていたという。
ノーベル賞受賞の山中伸弥博士が謙虚におっしゃった
「ベールを一つ、また一つとはがしていくこと。そしてあるときベールをはがしてみると、そこに真実が姿を現す。その一つに巡り合った」
という言葉通りであって、過去のダルシマー、クラビコード、そして、チェンバロ作りの技術的知的財産の上にピアノは成り立っている。
そんなわけで、長い歴史の中でクリストフォリは、とても重大なベールの一つをはがした偉大な人物であるといえるのかもしれない。
クリストフォリの開発した新楽器は、クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ(Clavicembalo col piano e forte)と言って、「弱い音も強い音もでるチェンバロ」と名付けられた。
チェンバロの弦をはじく構造では、鍵盤をゆっくり押さえても、強く早く押さえても音の大きさに変化はなかったけど、
この新楽器は叩く構造でもって強弱を出すことができるという画期的構造を持っていた。
当時のピアノは現在のピアノのように、鋳型による金属フレームは組み込まれておらず、弦の張りも弱かっただろうから文字通り「張りのない音」だったかもしれない。
でも、弦を叩くアクションはすでに完成されており、弦を叩いた後 一瞬にしてハンマーが元に戻るという、ピアノとしては当たり前の機械構造的アルゴリズムは「発明」と呼んでいいのだと思う。