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伶人時元が物語
エッセイ
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伶人時元が物語
体源鈔/體源抄(たいげんしょう)
体源鈔は、1512 年(永正9年)に完成した室町時代の雅楽書。作者は豊原統秋(とよはらむねあき)。
一三巻。楽律・調子・楽器・曲目など多方面にわたって記述したもで。笙(しよう)に関する記述が特に詳しい。
体源鈔には「伶人時元が物語」というのがある。ここに出てくる武吉というのは笙の名工。
武吉(伶人)が許に賤しき女、舌なき笙を持来りて売けるに武吉其価を尋ねるに知らずと云う
唯此笙にあたらん程賜わるべしとて打任せたるに、武吉絹二疋を与えて、笙を買とりつくづくと見るに無双の笙なりければ、価を増し加えんとて、彼の女を呼びたれば女、笙を返さんとするぞと心得て、
命を限り逃げるを、ようようにして呼び返しければ、女恨みて上藹は思い返しはせぬものをといいければ、
武吉聞いて返□□為にはあらず
笙のあまりに良ければ値を増さん為めなりとて今三疋を増し与えぬ。
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「伶人時元が物語」を現代文で書くと こうなる
むかしむかし、武吉という笙の名工がおりました。ある日、武吉のところへちょっと貧相な女がやって来たのです。
その女は壊れて舌(リード)が取れてしまった笙をもっています。
「この笙を買ってほしいのです こわれていますが 値打ちのある笙でございます」
「ほうほう なかなか立派な笙ではないか」
「はい ありがとうございます 武吉様はさすがでございます」
「で いくらで買い取ればよいのかな」
「それは 武吉様におまかせいたします」
「そうかそうか それでは絹を二疋でいかがか」
「絹二疋でございますか わかりました」
女は、思ったよりも高値がついたので、内心ビックリしましたが、顔には出しませんでした。
そして、武吉の考えが変わらぬうちにとそそくさと絹二疋を持って帰ろうとしました。
一方、武吉は女の持ってきた笙をもう一度念入りに見ました。
「なな なんと この笙は・・・」
武吉は女を追いかけました。
よくよく見ると、その笙は名品も名品、天下無双の笙だったからです。
武吉は女に追いつきました。
「ちょっと待ちなさい この笙はな・・・」
絹二疋を持って早く家に帰ろうとした女はビックリです。
武吉の気が変わって、笙はいらぬから、絹を返してくれと、追いかけてきたに違いないと思ったからです。
「武吉様は高貴な旦那様です 一度決めたことに言い直しなんかしないでください」
「いやいや、これは天下無双の笙だ、絹を二疋では申し訳ない」
ということで、さらに絹を三疋渡した。
「うれしー!」
女は喜び、ルンルン気分で絹五疋をもって帰った・・・・とか。
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伶人(れいじん):雅楽を演奏する人。音人。現代流にいえば音楽家のこと
疋(ひき/ひつ/き):織物の長さを表す単位。反物2反分の長さを1疋という
笙(しょう)
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