吾輩はサツゲンガッキである
吾輩は擦弦楽器である。名前はいっぱいある。
どこで生れたかとんと見当がつかぬ。モンゴルの馬頭琴なのか、セイロンのラヴァナストロンなのか、エジプトのラバーブなのか・・・。
バイオリンのような擦弦楽器は難しい構造をしているわけではないので案外と簡単に作ることができる。
だから、世界中いたるところで作られた。その辺の材料を使って気まぐれで作っても音は出る。良い音か悪い音かは、それぞれ解釈が違うのでこのさい関係ない。とにかく音は出るし、音階だって自由に演奏できる。
地域固有の音階を出すのにも楽器そのものの製作上の制限はない。
作った楽器の名前は勝手につけてもいいし、どこかの国で使われていた名前をそのまま使ってもいい。だけど、そのままの名前を使っても母国の発音にするとちょっと違ったりする。訛る。
文字にする時は自国の文字やスペルで書く。読むときは勝手に自分流に読んで発音してしまう。
こんなわけで、同じ名前のはずが違う呼び名に変わってしまったり、形が違ったり、皮をはってみたり、弦の数を適当に増やしてみたりで世界中で名前と形が入り乱れているという結果に相成った。
さて、その歴史。馬の毛で弦をこすって音を出すという実用新案を発見し、それを楽器として使い出したのは「いつ頃」「どこで」ということだが、これに関しては一切不明だ。
別に、どこのだれが擦弦楽器を使い出したかなんてのは、判ったところで人類にとって何かいいことがあるわけでもないし、バイオリニストの上達が早くなるわけでもない。
とはいえ、せっかくなので色々と文献を調べてみた。
- 馬頭琴ではないか
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モンゴルの馬頭琴(モリンホール)ではないかという説。モンゴルでは馬との生活が長い。8世紀の遺跡から発見されている。
馬頭琴は弓だけでなく弦も馬のシッポを使っている。
- ラヴァナストロンだろう
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4千年以上も前にセイロン(今のスリランカ)のラヴァナ王が発明したのだという。だけどもラヴァナ王そのものの歴史的存在が怪しい。
- ラバーブだと思われる
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ここは地の果てアルジェリア・・やエジプト、さらに東南アジアまでラバーブとかルバブという名称で伝わっている。
擦弦楽器の起源やいかに、ということなんだろうけど、どうしてある特定の箇所で発生した楽器であるという大前提があるのかな。
世界中ありとあらゆる場所で弦をこすって音を出すアイデアが生まれたはずだと思うのだけど、いかがなものだろう。