私家版楽器事典 楽器の歴史 楽器事典の目次





  角笛が金管楽器に
  低音の金管楽器
  ダブルリードの管楽器
  弓で弦を擦る楽器

  リュート形弦楽器
  打弦楽器
  釜形太鼓

  小さな4弦楽器
  弓形ハープ
  バー・ツィター
  バンブー・ツィター



バー・ツィター (棒琴/ぼうきん)

♪ 勇気の鈴が リンリンリン 不思議なボウキン ビンビンビン・・・
というわけで、アンパンマンも食パンマンも(おそらく)知らない、古代の棒琴について。

カンボジアの
バー・ツィター


狩猟に使う弓から弦楽器は作られたという。
弓そのものを口にくわえて音を出す遊びを誰かがやり始めたのがきっかけ。 しばらくして、木の実などの殻をくっつけると音が大きくなることに気づいた。実用新案である。

そして、狩猟の弓は弓、音を出すものは音楽器具として、その目的や機能が分化してそれぞれのカタチに別れたんだね。 楽弓(がっきゅう)と呼ばれるものは、もはや「狩猟の道具」ではなく「音を奏でる道具」として成り立ったのであった。

カンボジアのアンコール・ワットには楽団の壁画(レリーフ)があって、その一員として棒に弦を張った一弦琴を弾く男性が彫られている。
アンコールワットの壁画(レリーフ)
アンコール・ワットのレリーフ

瓢箪らしき共鳴器が付いているのが分かるでしょうか。これは、ツィターや箏(そう/こと)の祖先であり、また、棹(ネック)のある弦楽器、つまり、リュートやギターの原始的な姿であるといえる。

タイの ピン・ピア (Pin pia)
タイのピンピア
アンコール・ワットの一玄琴とほぼ同じ形状をしている楽器は現在でもタイ王国で使われている。 ピン・ピアといって、伝統的に瓢箪を共鳴器として使っている。 タイでは瓢箪のことをナムタオというので、この楽器をピン・ナムタオとも呼ぶ。

ベトナムの ブロ (bro)
ベトナムのブロ
ベトナムのバーツィターは フレットが付いている。本体は竹。

東南アジアからマダガスカル そして アフリカ

マダガスカルの最初の住人は、東南アジアのボルネオ島あたりから舟に乗ってやってきた。嘘だろ。いや、本当らしい。
アウトリガー・カヌーが共通、言語が似ている。さらには、DNA研究で確実となったという。 1世紀前後、8,000km以上ある海上をカヌーで渡ってマダガスカルに移り住んだんだと(コロンブスが新大陸を発見したなんてのは、なんてささやかな出来事か)。 その後、アフリカ大陸からマダガスカルに渡ってきた人たちと混血し「マダガスカル人」となった。
楽器事典なので、楽器についてふれると、マダガスカルには「竹筒に弦を張った楽器」や、ここで紹介している「木の棒に弦を張った楽器」が、ほとんど同じ形状で作られている。 アフリカ(モザンビークやコンゴ)にもバー・ツィターがあるが、これは、マダガスカルのバー・ツィターを模倣したもの。 つまりは、アフリカのバー・ツィターは東南アジアからやって来たということになる。
黒沢隆朝の世界楽器大事典では、セレベスの棒琴 と紹介されている。セレベスはインドネシアの島で、現在の名称はスラウェシ島。
棒琴の名の通り木の棒に1本の弦が端から端まで渡されている。このバー・ツィターの特徴はフレットがあることだ。
スラウェシ島のバー・ツィター
スラウェシのバーツィター(タリンド talindo)


なんと、スラウェシ島のバー・ツィターと同じ楽器が、はるか遠く離れたマダガスカルにもあるのだ。 瓢箪の共鳴器が取り付けられており、木の棒には弦長を変えるフレットがそなわっている。
スラウェシ島のバー・ツィターと若干デザインが違うが、基本的に同じ構造。このデザインは モザンビークなど、アフリカでも共通する。
マダガスカルのバー・ツィター
マダガスカルのバーツィター/ゼゼ
私家版 楽器事典 バー・ツィター